発見!江戸名所図会

江戸のヴィジュアル・ガイドブックの決定版『江戸名所図会』

『江戸名所図会』は江戸時代の天保年間に出版された、江戸とその近郊のヴィジュアル・ガイドブックである。神田雉子町の名主を務めていた斎藤家の父子3代が編集し、絵師の長谷川雪旦が挿絵を描いた。挿絵の写実性の高さは特筆すべきものであり、江戸の景観を復元するための資料としても貴重である。 

「発見!江戸名所図会」

土倉タイスケ・千葉正樹・小林信也の3名は、YouTube番組「発見!江戸名所図会」を制作し、『江戸名所図会』の魅力を紹介している(毎月中旬アップ) 

制作者:土倉タイスケ 1956年生まれ、クリエイティブディレクター、プロデューサー,  千葉正樹 1956年生まれ、尚絅学院大学教授、著書『江戸名所図会の世界-近世巨大都市の自画像』、『江戸城が消えて行く―江戸名所図会の到達点』(いずれも吉川弘文館),   小林信也 1964年生まれ、川村学園女子大学講師、著書『江戸の民衆世界と近代化』(山川出版社)、『江戸の都市プランナー』(柏書房)

 

「発見!江戸名所図会」の各回のテーマ(括弧内は取り上げた主な挿絵のタイトル)

1回「ようこそ江戸へ」(「江戸東南の市街より内海を望む図」「日本橋」他)
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2回「本当に見えたの?八見橋」(「八見橋」)
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3回「江戸名所図会の春夏秋冬」(「道灌山 聴虫」「小名木川 五本松」他)
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4回「両国へ行くと何がある?」(「両国橋」)
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5回「江戸名所図会の空間演出」(「柳原堤」「牛込神楽坂」他)
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6回「探してみよう 江戸の師走シーン」(「四谷内藤新駅」)

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7回「江戸名所図会片手に浅草寺」(「金龍山浅草寺」)

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8回「春爛漫 江戸の雛市」(「十軒店雛市」)

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9回「絵師雪旦のいたずら」(「釆女ヶ原」「国分寺伽藍旧跡」他)

10回「江戸でNo.3のお祭りはここ 赤坂氷川明神」(「赤坂氷川社」)

   第10回前編  第10回後編

11回「お見事!江戸の松」(「八景坂 鎧掛松」「麻布 一本松」他)

12回「新大橋 川面に消えた歓楽街」(「新大橋 三派」)

13回「江戸坂道コレクション」(「飯田町 中坂 九段坂」「科濃坂 権太坂とも云」他)

14回「中山道は大にぎわい 巣鴨庚申塚」(「巣鴨庚申塚」「板橋駅」他)

15回「富嶽十景」(「富士見茶亭」「芝崎 普済寺」他)

16回「今日はお天気!大宮氷川神社」(「氷川宮大門先」「氷川明神社」)

17回「江戸の歳末」(「年の市」「装束畠 衣装榎」他)

18回「日本一に掛け値なし 三井呉服店」(「駿河町 三井呉服店」)

19回「高級料亭へ行ってみよう」(「二軒茶屋 雪中遊宴之図」「飛鳥橋のあたり」他)

20回「吉原今昔」(「新吉原町」)

21回「江戸のお稲荷さん」(「杉森稲荷神社」「王子稲荷社」他)

22回「清水堂 上野の山は花ざかり」(「清水堂 花見図」)

23回「江戸名所図会の太陽と月」(「高輪海辺 二十六夜待」「茂侶神社」他)

第24回「日本の新中心 日本橋」(「日本橋」)

第25回「江戸の長大橋」(「千住川」「大川橋」「両国橋」「新大橋 三派」「永代橋」)

2023年9月22日 (金)

春爛漫 江戸の雛市

江戸では、桃の節句にあわせて、225日から10日間くらいの期間で雛人形や雛道具を販売する市が開かれていた。「十軒店雛市」図は、日本橋に程近い十軒店界隈で開かれていた雛市の情景を描いた絵である。絵の中には、販売中の雛人形や雛道具はもちろんのこと、桃の花や毛氈、甘酒、お盆に載せられた貝類など、雛祭りを象徴する様々なアイテムが満載である。また、雛人形を買いに集まった人々が多く描かれているが、その客層の多様さなども見事に描き分けられている。

そうした華やかな雛市の情景の中で異質な雰囲気を感じさせる人物たちがいる。そろって黒い頭巾に黒い羽織を着用した2人の武士が描かれているのが目を引く。腰には刀を差しているが、鞘の先が高い位置にある独特の差し方である。またその2人の後ろで2人に付き従っているように見える1人の男は町人風の身なりだが脇差を差している。

『発見!江戸名所図会』第8回「春爛漫 江戸の雛市」では、「十軒店雛市」図に描き込まれた雛祭り関連のアイテムの解説をしつつ、上で紹介した場違いな男たちの正体や彼らがこの図に描き込まれた理由についての仮説も提示した。

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2023年8月22日 (火)

江戸名所図会を片手に浅草寺

 『江戸名所図会』の編者である斎藤月岑(幸成)が残した日記を見ると、月岑は浅草が特別に好きだったことがうかがえる。彼が遊歩を楽しんだ場所として日記に最も多く登場するのが浅草である。幼い娘を連れて行くこともしばしばだった。浅草寺境内の名物であった床店(露店)の手遊び屋(玩具屋)で、娘に何かオモチャを買ってやったりもしたのだろう。

 月岑の父の莞斎(幸孝)は月岑が15歳の時に急死した。莞斎は父の長秋(幸雄)が始めた『江戸名所図会』の編集を引き継ぎこれに精力を傾けていた。月岑はそんな父が果たせなかった『江戸名所図会』刊行の夢を実現させたのである。

 娘を連れて浅草を歩く月岑には、幼い頃に父と歩いた浅草の思い出はあったのだろうか。

 『発見!江戸名所図会』第7回「江戸名所図会片手に浅草寺」では浅草寺ロケで現地での解説に挑戦した。撮影に不慣れでいろいろお見苦しかったりお聞き苦しかったりする箇所も多い。いつか再挑戦を。
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2023年7月 1日 (土)

探してみよう 江戸の師走シーン

 「四谷内藤新駅」図は、甲州街道の宿場であった内藤新宿(現在の新宿)の風景を描いた絵である。
 同宿は甲州街道の宿場のうち江戸に最も近かった。同様の位置にあった東海道の品川宿、日光街道の千住宿、中山道の板橋宿と合わせて江戸四宿と呼ばれた。これらの宿場の旅籠屋の多くは飯盛女を置き実質的な遊女屋として営業していた。
 「四谷内藤新駅」図はそうした内藤新宿の師走風景を描写している。餅つきをする人たち、旅籠屋へお節料理用のタコを売ろうとしている棒手振の魚屋、門付する芸人たちがたちまち目を引く。
 そうした江戸の師走を象徴するシーンはこの絵の中にいくつ盛り込まれているのだろうか。『発見!江戸名所図会』第6回「探してみよう 江戸の師走シーン」で絵解きをしてみた。
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2023年6月13日 (火)

江戸名所図会の空間演出

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 『江戸名所図会』に騙されるな(

 上の絵は「牛込神楽坂」である。絵の左端には神楽坂の坂下が描かれ、坂の上、絵の右手奥には有名な毘沙門天善国寺が描かれている。神楽坂に行ったことのある人なら気づくかもしれない。坂下から善国寺まではこんなに近くないよなぁ、と。

 『江戸名所図会』の価値を大きく高めているのが挿絵における写実性である。しばしば写真のような写実性とも評される。挿絵の制作にあたり、絵師長谷川雪旦は現地へ赴き綿密な取材をした上でそこにある建物や行き交う人々の姿などについても正確な再現に努めたことが知られている。

 そのため、『江戸名所図会』の挿絵を見る人は、それが実際の江戸の風景をそのまま忠実に描いたものであると思いがちである。しかし、一部の挿絵では、実際の風景を基にしつつもそれを改変した風景が描かれているのである。しかも、それらの改変は、見る人がそれに気づかないような巧みな方法で施されている。

 それでは、そうした改変は何のためになされたのだろうか。

  『発見!江戸名所図会』第5回「江戸名所図会の空間演出」では、「小名木川五本松」・「柳原堤」・「八見橋」・「牛込神楽坂」・「新吉原町」の5枚の挿絵を取り上げて、それぞれの絵に施された改変がどのようなものであるのか、そしてそれは何のための改変であるのかを考えてみた。

 

2023年5月23日 (火)

両国へ行くと何がある?

『江戸名所図会』第2冊の冒頭に収載された「両国橋」図は、数ある『江戸名所図会』の挿絵の中でも屈指の力作である。この図が特別な力作に仕上がっていることに関しては、それが編者や絵師の強い意志によるものであるのはほぼ確実である。

ところで、「両国橋」図については下絵が現存している。その下絵と「両国橋」図とを比較すると、完成図は下絵の構図を大きく変更して描かれていることがわかる。この構図変更の内容や目的について考察すると、「両国橋」図に込められた編者や絵師の狙いが明確になるだろう。

『江戸名所図会』の冒頭で誇示される日本橋の繁栄ぶりとは異なる江戸固有の都市風景が「両国橋」図には活き活きと描かれている。こうして同図は、比類なき巨大都市としての江戸を見事に象徴しているように思われる。編者や絵師の狙いもそこにあったのだろう。「両国橋」図に描かれた江戸固有の都市風景とはどのようなものなのか。詳しくは『発見!江戸名所図会』第4回「両国へ行くと何がある?」で。

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2023年4月26日 (水)

江戸名所図会の春夏秋冬

 『江戸名所図会』の魅力のひとつは、その挿絵の中で表現される豊かな季節感である。『発見!江戸名所図会』第3回「江戸名所図会の春夏秋冬」では、四季それぞれの風物を描いた挿絵7枚を紹介した。

 春は「十軒店雛市」・「鎌倉町豊島屋酒店 白酒を商ふ図」。桃の節句、雛祭りに関係する挿絵2枚を選んでみた。

 夏は「両国橋」。有名な両国花火の情景を紹介した。玉屋と鍵屋、人気を集めたのはどちらの花火か。もしかすると絵の中に答えがあるかも。夏のもう1枚は「落合蛍」。蛍狩りの人々が楽しそうだ。

 秋は「道灌山 聴虫」・「小名木川 五本松」。虫の声に名月。しみじみと味わい深い。小名木川を進む船の乗客の中には、親しい友と会った帰りの著名人がいる。

 冬は「二軒茶屋 雪中遊宴之図」。雪の積もった庭を眺めながらの宴会の情景。有名高級料亭で豪遊する江戸の富裕層の姿が描かれている。

 この第3回は、個人的におすすめの回。

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2023年4月23日 (日)

本当に見えたの?八見橋

 「八見橋」というのは一石橋の別称であった。この一石橋の付近で、日本橋川と外堀と道三堀とが交差していたため、この橋からはそれらの水路に架けられた何本もの橋々を一挙に見渡すことができた。

 すなわち、日本橋川に架かる日本橋と江戸橋、外堀に架かる常盤橋と呉服橋と鍛冶橋、道三堀に架かる道三橋と銭瓶橋、以上の7本に一石橋自身を加えた8本の橋が見えるとして、一石橋は「八見橋」とも呼ばれたのである。

 しかし、本当に8本の橋が見えたのかどうか。これに疑問を持つ人も少なくない。特にもっとも離れた場所にある鍛冶橋については疑問視する人が多い。

 そこで『発見!江戸名所図会』第2回「本当に見えたの?八見橋」では、明治初期に作成された大縮尺の測量地図を利用して8本の橋が見えたかどうかを検証してみた。果たして鍛冶橋は見えたのか、見えなかったのか。他の橋はどうだったのか。

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2023年4月 9日 (日)

ようこそ江戸へ

『江戸名所図会』の冒頭に載せられた4枚の挿絵には、読者を江戸の町へと誘うため、ある面白い工夫が施されている。

その4枚のうち最初の絵は、江戸城の真上600メートル前後の上空に視点が置かれ、そこから江戸の市街地と江戸湾とを眺める構図をとっている。そして、2枚目以降、その視点は徐々に下降していく。2枚目は地上およそ200メートル、3枚目は3040メートル、そして4枚目は78メートル、といった具合である。これにより、『江戸名所図会』をめくる読者は、4枚の絵を順に見ることで、江戸のはるか上空から地面近くまで、だんだんと舞い降りていく感覚を味わうのである。

こうした工夫が施されていることを指摘したのは、『江戸名所図会』の研究書も書いている千葉正樹さんである。読者を江戸の町へ誘導する工夫には、上に書いたような視点の高度変化だけではなく、それぞれの絵の視角の動きや建物・人物の描写の変化も動員されていて、さらに効果的なものとなっている。

『発見!江戸名所図会』の第1回「ようこそ江戸へ」では、こうした工夫について千葉正樹さんが分かりやすく解説をしている。

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