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2005/01/20

巡見~江戸を縦貫する5 吉原の通り抜け後編

酉の市の準備で賑やかな鷲(おおとり)神社を後にして吉原へ向かう。

吉原弁財天
 まず吉原のすぐ裏手にある吉原弁財天へ。歩いて三分足らず。ここには関東大震災で亡くなった遊女の供養塔がある。この供養塔は不思議なかたちをしている。弁財天の像が据えられた塔はおおよそ厳かなたたずまいといったものではなく、まるで大きな岩が溶けかかって崩れたようなかたちをしており、むしろ不気味さを感じる。たしか小さな池もあったような気がする。そのせいか、この場所はいつも蚊が多い。今回は11月下旬だというのに、やっぱりたくさん蚊がたかってきた。ここにいるといつも落ち着かない気分になる。
 すぐ目の前はNTTの敷地だが、そのなかにかつて吉原公園内の池があったようである。関東大震災の時、火に追われた遊女たちがこの池の水に救いを求めて殺到し、490人が池を埋めつくすようにして亡くなった。その凄惨な状況を撮った写真も残されている。
 この供養塔の前で地図や資料を広げて学生さんたちに吉原の歴史を簡単に説明し、NTTの敷地の裏手へと進む。江戸時代であれば、この付近は吉原の裏手だが、現在は国際通りから吉原へ入っていく道筋にあたっていて、吉原へと向かう車の通行が多い。出勤してくる女性たちを乗せたタクシーが何台もこの弁財天の前を行き過ぎていく。

遊郭吉原
 遊郭吉原の全体は長方形をしている。長方形の長い辺が400メートル弱で、短い辺がおよそ300メートルである。この長方形の中央を貫通するかたちの全長300メートルのメインストリートが仲の町通りである。このメインストリートを進むと左右にそれぞれ奥行き200メートルの横丁が何本かある。
 私たち巡見の一行は、遊郭の外側からそうした横丁の1本に入って、吉原の中心へと向かう。この横丁はかつて揚屋町通りと呼ばれた道だ。そう、酉の市の日、『たけくらべ』の美登利が髪を初めて島田に結って廓内へと入っていった道。
 道の両側にはソープランドが並ぶ。まだ陽も高く、客の姿はほとんどない。店の前には呼び込みの従業員がすでに立っているところもあるが、多くはまだ準備中といった風情で玄関のドアも開け放してある。ドアの奥には受付のカウンターがあり、壁には在籍女性の写真が並ぶパネル。我々が歩く道路には、ピカピカに磨かれた白や黒の大型高級国産車がたくさん駐車してある。これらの車は、三ノ輪や浅草あるいは鶯谷といった最寄り駅との間で客を送迎するためのものだ。高級店ならではのサービスだと聞く。
 メインストリートに到達する。ここで左に折れてメインストリートを進み、かつて吉原遊郭の正面玄関であった大門の跡地まで行く。このメインストリートの両側も多くはソープランドだ。大門跡の脇にある派出所前で一休み。この派出所は、以前はもっと吉原の中心に位置していたように記憶しているが、あまり自信のない記憶である。
近くの寮から集団で徒歩通勤している女性たちを横目でみながら、学生さんたちに再び解説をする。

ソープランドの間口
 今回歩いてみて気づいたのは、メインストリートに面した店の多くは間口が狭いのに対して、横丁の店の方は間口が広いということである。こうした違いがあるのはなぜか?
 かつてメインストリートには、引手茶屋と呼ばれ、客と遊女屋との仲介をする店がずらりと並んでいた。一方、遊女屋はメインストリートではなく、横丁に面して営業していた。江戸時代の吉原の地図や近代以降の写真などをみると、引手茶屋の間口は狭い。この引手茶屋の間口割が、現在メインストリート沿いにあるソープランドの間口の狭さにつながっているように思える。できることならこの仮説をちゃんと検証してみたいものだ。

吉原の歴史研究について思うこと
 今から100年後、吉原の歴史について調べようとしたとき、20世紀後半から現在にかけての吉原については、ほとんど何も分からなくなっているのではないだろうか。江戸時代から戦前にかけての吉原の方が史料も豊富でよく分かるという状況が生じるのはほぼ確実だろう。江戸時代や戦前の吉原について興味を持って学術研究する人のほとんどは、なぜか現在の吉原についてまるで関心を欠いているようにみえる。これは私にとってとても不可解なことだ。そのような無関心はさておき、現在の吉原についてきちんとした資料を残すことはやはり重要である。社会学の分野などでは調査活動が行われているのだろうか?自分でやらなきゃいけないかなぁ。

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