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2005/01/30

巡見~江戸を縦貫する7 山谷って聞いたことある?

受け持っているいくつかの講義で大学生諸君に尋ねてみた。「山谷って知ってる?聞いたことある?」 誰も知らなかった。もちろん、知ってたけど黙ってた、という人がいるかもしれないけど。


山谷の風景

さて、巡見一行は遊郭吉原をあとにして山谷へ向かう。
最初はアーケードがしつらえられた商店街。その商店街を抜けると、立ち飲みの居酒屋さん。まだ営業時間ではないらしいが、その前の路上に車座になって座り込み、酒をあおっているおじさんたち。「こんにちは。」と声をかける。向こうも愛想良く返事を返してくれる。車座を通り過ぎたあたりで「福祉の人たちだね。」ってしゃべり声が背後から聞こえる。我々は、山谷の困っている人を援助する学生ボランティアの一行に見えたらしい。

泪橋交差点の近くまで行ってから、折り返すようなかたちで玉姫神社の方へ進む。周囲は簡易宿泊所や安い「ビジネス」旅館が密集している。山谷というところは、日雇い労働者たちの宿・やど=ドヤの集まる地域、ドヤ街だ。

学生のひとりが、「ここは日本じゃないみたいですね。どっかアジアの別の国みたいです。」と率直な感想をはいている。このせりふにみえる日本観・アジア観の問題はさておき、周囲の町なみや道端で座り込んでいるおじさんたちを眺めながら、これもひとつの典型的な日本の風景だと感じる自分と、その学生とを比較して、隔世の感ってのはこういうことなのかな、とも思う。

山谷について勉強したい人には、西澤晃彦さんという社会学者の方が書いた『隠蔽された外部-都市下層のエスノグラフィー』(彩流社1995)という本がおすすめできる。もともと多様な都市下層の結節点であった山谷が、その姿を変え、男性の単身日雇い労働者の街へと純化させられた過程を明らかにしている。

次回はこの西澤さんの本から、山谷の純化の過程について紹介する。


「都市へのまなざし―淫らな好奇心」  (西澤書2000より)

ところで、我々巡見一行が車座で酒を飲むおじさんたちの前を歩いていると、向こうから40人くらいの学生の一行が整然と列を組んで歩いてきた。引率している教員らしい複数の男が、ボディーガードみたいにして列の一番前と一番後ろ、あるいは列の横に配置されている。車座のおじさんたちはこの一行にも声をかけた。列を組んでいる学生のうちのひとりが「こんちわっす。」とおどけた感じであいさつを返していた。が、教員らしい男たちは口もきかずにずんずん進んでいく。

「サファリパークでもあるまいに。」と思う。いくらなんでも無作法だと思う。今回、吉原・山谷あたりの巡見については参加者をなるべく少人数にしたくて、日程を11月と12月の2回設定し人数を振り分けた。やっぱり大人数で行列作って練り歩くのは避けたかった。サファリツアー化しないよう、それなりに配慮したつもりである。
しかし、その大学生ご一行に出くわして感じた嫌悪感には、鏡にうつる自分をみてしまったことによる自己嫌悪がかなり混じっていたんだろう。

西澤書2000:町村敬志・西澤晃彦『都市の社会学 社会がかたちをあらわすとき』(有斐閣2000)33頁


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