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2005/03/30

「私の研究は面白いですか?」その2

 私は、都市社会の歴史=都市社会史を研究しています。江戸・東京がもっぱら研究のフィールドです。

「秘密基地」

 話はとびますが、皆さんは子供の頃、「秘密基地」を作ったことがあるでしょうか?私も小学生の低学年頃、よくやった記憶があります。近所の野原では、枯れ草や竹などで小さな掘っ建て小屋を作りました。町はずれのあまり使われていない建築資材置き場では、足場を組む木の柱やら板やらで囲んだ穴蔵のなかへ廃車のシートを引っ張り込んで作りました。
 「秘密基地」が子供の心をワクワクさせた理由は、そこが大人に隠れた「秘密」の場所であるから、という他に、もうひとつ、そこは、小さいながらも、この世の中で初めて手に入れることのできた自分(たち)だけの場所だったからだと思います。親から与えられた勉強部屋やお仕着せの遊具が揃った公園とは違う、自分(たち)の力で作った自分(たち)のための場所です。

私の研究テーマ

 自分(たち)で作る自分(たち)のための場所。こうした空間を我々は都市の内部に築くことはできるだろうか?その可能性を問うことが、私の都市社会史研究のテーマです。

 もちろん、私が今その可能性を追究しているのは、かつての「秘密基地」のように、ただそこで寝ころんだり、漫画を読んだりする場所ではありません。
 都市に生きる人々が誇りをもって働き、安心して暮らすための空間について考えています。

都市は誰が作るのか?

 そのような空間は、お仕着せの公園みたいに、時の権力者やお役人、都市計画の専門家といった人たちが作って与えてくれるものなのでしょうか。
 あるいは、一定のスペースを買い取ったり、借り受けたりすることのできるような、相当の資産をもつ人や組織だけが、都市において自分(たち)のための場所を思うように作り上げることができるのでしょうか。

 私が都市社会史をやる上で、特に注目しているのは、都市のなかの広場や市場といった場所です。広場や市場を舞台に自分(たち)の場所を主体的に作り上げていく人々の営みについて、その可能性を追っています。

 以上、抽象的な話でしたが、今回はここまでです。
次回は、江戸の広場に生きる人々を例にとって、少し具体的な話を書かせてください。


追記

 ところで、都市・広場・市場といえば、昨年亡くなった高名な歴史研究者の名前を思い浮かべる人が多いでしょう。1978年に『無縁・公界・楽-日本中世の自由と平和』(平凡社)を発表し、大反響を呼び起こしたその研究者は「都市のできる場」・「市の立つ場」という論文も書いています(なおこれらの論文は上掲書の増補版に収められました)。
 実は、今回、私が「秘密基地」の話で記事を始めたのは、エンガチョ・スイライカンジョーといった子供の遊びの分析で始まる『無縁・公界・楽』の真似です。

 中世史が専門のこの研究者、網野善彦さんは、近世の都市・広場・市場について詳細な研究をされたわけではありません。おかげで私もこれまで、網野史学と正面対決するという難事を回避させてもらってます。
 ただ、網野さんの研究以後、網野さんに学ぶことで、江戸の広場において無縁の原理、アジール的要素を見いだし、江戸という都市のもつ解放性を高く評価する研究=「大江戸万歳!!」的研究は、少なくありません。
 このような江戸研究に対して、私は学術論文上でかなり激しく批判を加えてきました。ただし、学術論文の場合は、それらの研究における事実認識が単純な誤りを多く含んでいることを指摘すれば、批判は成立します。
 しかし、このブログでは、そんな「史実」をめぐる細かな議論ではなく、もっと大まかな都市観・歴史観などを論じる方が良いでしょう。そんなわけで、ここ数日、久しぶりにご本家、網野さんの『無縁・公界・楽』を読み返してました。今後、うまく議論ができるといいのですが。

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コメント

なるほど。
私は素人ですが、確かに現代の都市でも
どのような経緯で、どの程度計画的で、
主にどんな人々の意向に沿ってつくられているか、等々は、都市によってかなり差が
あるように思われます。

レーダーチャート作ってみようかな。


投稿: bun | 2005/04/01 19:49

 コメントありがとうございました、bunさん。
にもかかわらず、しばらく旅行に出ており、こちらからコメントできず、失礼しました。
 「これからいついつまで旅行で留守にしますから更新できません。」と事前に公表できないところが、実名でブログを書くときのつらさですね。まあ、空き巣が入っても大したものなどは置いてないのですが。それでもPC持っていかれるとキツイです。
 それはともあれ、レーダーチャートは面白そうですね。似たようなものは都市社会学者の人とかがいくつか作っているのでしょうか。あればご教示ください。勉強してみたいです。
 現代都市における計画外的な都市化の問題としては、スプロール現象が注目されていますよね。それにももちろん興味があります。「郊外」の問題ってやつですね。
 一方、別の記事との絡みでいえば、今後、増大するフリーター層が、高齢化したり、また、寄生すべき実家を失ったりしていく段階で、彼ら彼女らがどのような都市空間を作り出すのか、興味があります。フリーター自身が自覚する意志とはある程度無関係かもしれませんが、何らかの特徴的な都市空間を形成していくのではないでしょうか。当面は、山谷のドヤ街のような集住地域を形成するのではなくて都市のあちこにに分散化しつつ、それでも一定の存在感を次第次第とあらわにしていく。二極化する社会構造に対応した何らかの空間的な現象が検出できるのではなかろうかと思っています。
 なお、このブログでは、江戸のフリーターたち=「その日暮らし」の人々が作り上げる都市空間について考えてみたいと思っています。そちらもご笑覧ください。

投稿: 小林信也 | 2005/04/06 15:41

いえいえ、実は・・・
私もずっと旅行に出ておりました(笑)。
ですので貴殿を咎める資格を持ちません(笑)。
どうかお気遣いなく。

行き先はタイとシンガポールでした。
自分が10代まで過ごした
昭和40年までの日本の空気を
感じることができました。

お仕事の成果を拝見できる日を
楽しみにしております。

投稿: bun | 2005/04/07 15:03

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