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2005/12/29

お江戸日本橋と都市景観その9

 前にも書いたとおり、私は、どちらかというと、都市景観の問題には無頓着な方だ。東京都心のスカイラインなんてガタガタで構わないし、狭い歩道をふさいじゃうような場合を除けば、町中に電柱がたくさん立っていてもぜんぜん平気である。
 それにもかかわらず、ここまでの連載記事で都市景観に関する評論めいたことを書いたのは、日本橋再生運動がしばしばかかげる「歴史と伝統の都市景観を取り戻そう」などといった謳い文句のシラジラしさを十分に確認しておきたかったからである。

日本橋の何を再生したいの?
 要するに、今の日本橋再生運動の主眼は、景観の再生などではない。日本橋地区の経済的な繁栄を再生することである。
 かつて江戸町方の中心であった日本橋は、現代の東京ではその地位を失ってしまっている。銀座や新宿、渋谷、あるいは都市再開発事業が進む六本木や汐留・新橋、そして、従来のオフィス機能に商業機能をプラスして脚光をあびる丸の内。それら都心の他地域に対して遅れをとってしまった日本橋。
 以前の記事で、「日本橋の何を再生したいの?」と問いかけた。その答えは、結局、日本橋の経済的繁栄や過去の栄光ってことになるんだろう。

 だから、現在の日本橋再生運動において、景観の再生が、経済的繁栄の再生よりも優先されることなどありえないように思える。
 日本橋周辺地域における高層ビルの林立に対して、これに歯止めをかけよう、あるいは、高すぎるビルを高架と共に撤去しよう、といった、景観優先の立場からするとしごく真っ当な意見が、今の日本橋再生運動の中で主流になることは、まず期待できないように思える。

「日本橋に首都高の高架は要らない」 
 結局、日本橋地域の経済的繁栄に対する貢献度が低い首都高速の高架に、景観破壊の汚名を一身に背負わせておいて、そのスキに、同じく景観の阻害要因であるはずの高層ビルには、地域経済活性化の核として大活躍してもらおう、というのが日本橋再生運動の大勢であるようだ。
 こうした運動の姿勢を正直に表しているのが、日本橋みちと景観を考える懇談会がホームページで公表している「日本橋地域の現状と課題」の奇妙な中身なのだと思う。
 
 次回は、景観の問題からはいったん離れ、日本橋地域の経済的再生が巻き起こすであろう深刻な問題について考えてみたい。

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お江戸日本橋と都市景観その8

高さ200メートルの墓石
 では、日本橋の上から高架が無くなった姿をひとしきり想像した後で、視線を再び目の前の三井タワーに戻してみよう。
 高さが約200メートルにも達するこの高層ビルだが、まず、足元の低層部分に注目する。低層部分の高さは、すぐ隣の三井本館同じ約31メートルの高さに揃えてある。ギリシャ風の列柱をあしらった外観も本館のそれに合わせたものだ。その低層部分から少しセットバックしたところに高層部分が聳え立つ。都心の高層ビルに対して、墓石みたいだという悪口を聞くが、低層部分で階段状にセットバックをしたこのビルの姿は、本当に墓石そっくりだよ。

スカイラインとの調和?
 だけど、設計者もビルオーナーの不動産会社も、このセットバックや低層部分の装飾によって、街並みの景観は守られたと自画自賛している。
 不動産会社のホームページをみると、「デザイン面においても、低層部は三井本館の特徴である列柱のリズムを受け継ぐとともに、低層部の上でセットバックすることで三井本館、日本橋三越本店など中央通り沿いの建物が形成するスカイラインとの調和をはかるなど、古きよき街並みの表情を保つためにさまざまな手段が講じられています。」とある。「保存と開発」が「両立」しているとも。

 いくらなんでも、それは言い過ぎじゃないかい?街並みを重視するってのが本心なら、やはり中央通りに面して同じ会社が建てたコレド日本橋はどうしてあんな珍奇な格好でピカピカしながら周囲から浮きまくっているのか、と突っ込んでみたいが、まあ、その辺りは商売人のご愛敬か。あるいは、コレドのことを深く反省した上での今度のデザインってことなのか。

 それはともかくとしても、高さ31メートルのスカイラインの街並みに、200メートルの高層ビルをぶち建てておいて、「スカイラインとの調和」や「古きよき街並み」の保存なんてことを自慢げに言い立てる感性はどうしても理解できない。「私のところのビルは中央通りのスカイラインをめちゃくちゃに破壊しています。せめてもの罪の償いとして、低層部分のデザインだけは工夫してみました。こんなことで許されるとは思いませんが、これが精一杯なんです。」といった言い訳をするならまだわかるが。

スカイラインが完全に無くなる日まで辛抱
 こんな小手先の工夫で、周辺との調和が実現し景観が保たれたと言うなら、同じことを、例えばローマのコルソ通りでやってみれば良い。あるいは、フィレンツェのポンテヴェッキオやヴェネツィアのリアルト橋のたもとで。東京駅の向こう側や京都駅あたりでは通用するのかもしれないけどね。
 この先、同じような高層ビルが日本橋周辺には何本か建つのだろう。そうしたら、もう誰も中央通りのスカイラインがどうのこうのって言わなくなる。その日まで頑張ろうってことかな。

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2005/12/26

お江戸日本橋と都市景観その7

日本橋再訪
 先日、学生さんたちと一緒に日本橋・丸の内・皇居周辺を歩いた。で、あらためて日本橋をみたが、やはり、景観復元を掲げての日本橋再生事業をとりまく現状は、おかしなところだらけだ。
 日本橋川の両岸を公園として整備し、その上空の容積率を周囲に売ることで得られる儲けでもって、再生事業のための土地収用その他の費用を捻出するなどという目論見もあって、なかなか有力みたいだ。もしそれが現実化したなら、日本橋川の周辺にはたくさんの高層ビルが建ち並ぶことになるのだろう。両岸の親水公園と、その背後に林立する高層ビル。それが景観復元?おかしくない?

もし首都高が撤去されたら
 学生さんたちとわいわいしゃべりながら、日本橋から神田方向へ、中央通りの東側歩道を北上した。三井タワーの威容が迫ってくる。
 三越の向かい辺りで立ち止まり、日本橋を振り返ってみた。そこで日本橋の上から高架が無くなった風景を想像してみる。
 日本橋川のすぐ向こう岸に建つ野村證券のビルが最初に視界をふさぐ(この建物はいわゆる“近代建築”としてそれなりに趣があるかも)。その奥には、野村證券ビルよりも背の高いビルの壁が、全面ベタっと赤っぽく塗られており、かなり目を刺激する(ここは以前からこんな色だっけ?なかなか大胆で激しい色使いだ)。

逆走する帆船
 さらに日本橋の景観にとどめを刺しているのは、それらのビルの背後で屏風のように広く空を覆う真新しい高層ビル。コレド日本橋。以前の記事にも書いたとおり、容積率緩和が生んだお化けビルだ。
 ビルの壁面の大きなカーブは風をはらんだ帆をイメージしてつくったという、なんたらデザイン賞受賞のこのビルだが、そんな姿が鑑賞できるのはビルの南面だけ。
 日本橋の側から見える北面はただの裏側。デザイン性など微塵もない無表情で巨大な四角い壁。なんたらデザイン賞の審査員は、写真や模型を眺めるだけでなく、実際にこのビルの周囲を歩いてみたのだろうか?
 北風に帆をふくらませながら“水辺空間”にその寒々しい背中を向けて遁走しようとするこの帆船。水辺に向き合うまちづくりなんて、ちゃんちゃらおかしく、付き合いきれないってことなんだろう。いや、そもそも、そこに川が存在することなんて、このビルのデザイナー(六本木ヒルズのデザインもこの人、かなり遠方にお住まい?)は知らなかったからだと私は信じたい。じゃなきゃ、あまりに性質が悪い冗談だ。

被害担当艦としての首都高
 日本橋界隈にあふれるこれら数々の襤褸に人々の目が向かないよう、景観破壊の汚れ役をひとりで引き受けてくれてるのが首都高の高架だと思った。本当にけなげだなぁ。

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2005/12/14

ワン・コイン古文書講座、始まりました。

 先週の土曜、ワン・コイン古文書講座の第一回が開かれました。
 私も会場でお手伝いさせていただきましたが、予想を上回る多くの方にお出でいただき、講師をつとめられた高尾善希さんともども、大変喜びました。

 さて、次回は2006年1月14日の土曜日午後の予定で、私が講師を担当させていただきます。正式なご案内は近く高尾善希さんのブログに掲載されると思いますので、そちらをご覧ください。
 たくさんの方のお出でを心からお待ちいたしております。もちろん、第一回に出席されなかった方も大歓迎です。
 以下、当日の講座内容に関する私からの予告です。

タイトル:江戸を読み解く
 巨大都市江戸の町はどのようなところだったのか。古文書の読解とあわせて、町の絵図などに書き込まれたくずし字を読みながらの絵解きもしたいと思います。
 当日は、皆さんの前に、江戸の町並みが鮮やかに甦る、そんな講座となるよう頑張りますので、どうかよろしくお願いします。

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2005/12/13

お江戸日本橋と都市景観その6

日本橋 みちと景観を考える懇談会
 日本橋の再生事業に関係する組織はいくつかあって、それら組織のどこを検討の対象とすべきか迷うが、とりあえず今回は「日本橋 みちと景観を考える懇談会」を選んでみた。「学識経験者、地元有識者、国土交通省、東京都、中央区及び首都高速道路公団による懇談会」、だそうで、昨年には、日本橋再生プランのコンペなども主催した団体だ。

日本橋地域の現状と課題
 この懇談会のホームページ「日本橋地域のまちづくり」をのぞいてみると、「日本橋地域の現状と課題」なるページがある。当然、そこには、日本橋地域の景観をめぐる問題認識や課題がまとめられている、と思いきや、それは大間違い。この「現状と課題」のページに列挙された項目は次のとおり。
 「オフィス集積度、金融集積度、用途地域等、土地利用の現況、建物構造等、借地権割合、都心主要オフィスエリアにおける空室率の推移、オフィス募集賃料の推移、オフィスビルの立地ニーズと現状の課題、路線価図の比較、日本橋周辺の主な開発状況、地下鉄駅降客数、日本橋地域在住者数」。

 あれれっ?ここには景観の“け”の字も出てこない。会の名称である「みちと景観を考える」とは、おそらく、主に首都高の移設問題と日本橋地域の都市景観について考えるってことなんだろうな、と思ったのに。変だなぁ。

 「都心主要オフィスエリアにおける空室率の推移」の項目をみると、「日本橋地域のオフィス空室率は、1999年9月時以降は改善傾向にあり、2001年9月時点では、約半分程度となっている。しかしながら、丸の内地域や西新宿地域等と比較すると、依然として、かなり高いオフィス空室率であることがわかる。→高いオフィス空室率」と記されている。
 次に「オフィス募集賃料の推移」という項目を見ると、オフィス賃料のデータが示された上で、「オフィスの募集賃料は、全体的に低下傾向にあり、日本橋地域の賃料は、西新宿と同程度となっている。また、東京駅を跨いで反対側に位置する丸の内周辺と比較すると、約半分の賃料であることがわかる。→オフィス賃料の低下」という説明が付されている。
 「路線価図の比較」の項目では、「また容積率等が異なることから、路線価を他地域と一概に比較することはできないが、丸の内、銀座、青山といった地域と比較した場合、丸の内、銀座よりも、路線価はかなり低くなっている。→周辺地域と比べ低い路線価」と書かれている。

 以上、「日本橋地域の現状と課題」というページに表れているのは、オフィスビルなどの不動産的価値をなんとかして高めていきたいという人々の金銭的欲望やら、丸の内・銀座・西新宿などの都心他地域に向けられた嫉妬心やらである。(つづく)

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2005/12/05

お江戸日本橋と都市景観その5

日本橋再生運動の不思議

 前の記事に書いたとおり、日本橋の再生運動を積極的に推進している人々の多くには、一方で、首都高の高架を撤去して日本橋の景観を復活させようと主張しつつ、もう一方では、日本橋の街並みの伝統的景観を大きく破壊する高層ビルの出現には反対しない、という不思議な矛盾がみられる。むしろ、それら高層ビルの誕生を喜び、今後、同様のビルが増えることを待ち望んでいる人も多いようである。
 さらには、日本橋の景観を復活させるといいながら、日本中の、いや世界中のあちこちで増殖している、ありきたりの親水公園を、日本橋川筋にも複写しようというプランが歓迎されたりしている。言うまでもなく、歴史上、そのような公園が日本橋川に作られたことはない。この地にかつてなかった、没個性的景観の創出が計画されているわけだ。

 これらの状況をひととおり考え合わせると、現在展開されている日本橋の再生運動の大筋は、日本橋周辺の歴史的景観を再生しようとするものではないことが分かる。

日本橋の何を再生したいの?

 では、日本橋の再生運動とは、いったい、日本橋の何を再生しようという運動なのだろうか。

 むろん、日本橋の再生運動に携わる多くの人々をひとくくりにして扱うことはできないであろう。各自、日本橋の何を再生しようとしているのか、意見の相違があるだろう。
 ところで、この再生運動の推進主体のひとつに、地元住民や企業、関連するお役所などが官民一体となって作った組織があるようだ。そこで、こうした組織の広報などに示された見解やスタンスを素材に、この運動は日本橋の何を再生しようとしているのか、検討してみよう。(つづく)

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