お江戸日本橋と都市景観その8
高さ200メートルの墓石
では、日本橋の上から高架が無くなった姿をひとしきり想像した後で、視線を再び目の前の三井タワーに戻してみよう。
高さが約200メートルにも達するこの高層ビルだが、まず、足元の低層部分に注目する。低層部分の高さは、すぐ隣の三井本館同じ約31メートルの高さに揃えてある。ギリシャ風の列柱をあしらった外観も本館のそれに合わせたものだ。その低層部分から少しセットバックしたところに高層部分が聳え立つ。都心の高層ビルに対して、墓石みたいだという悪口を聞くが、低層部分で階段状にセットバックをしたこのビルの姿は、本当に墓石そっくりだよ。
スカイラインとの調和?
だけど、設計者もビルオーナーの不動産会社も、このセットバックや低層部分の装飾によって、街並みの景観は守られたと自画自賛している。
不動産会社のホームページをみると、「デザイン面においても、低層部は三井本館の特徴である列柱のリズムを受け継ぐとともに、低層部の上でセットバックすることで三井本館、日本橋三越本店など中央通り沿いの建物が形成するスカイラインとの調和をはかるなど、古きよき街並みの表情を保つためにさまざまな手段が講じられています。」とある。「保存と開発」が「両立」しているとも。
いくらなんでも、それは言い過ぎじゃないかい?街並みを重視するってのが本心なら、やはり中央通りに面して同じ会社が建てたコレド日本橋はどうしてあんな珍奇な格好でピカピカしながら周囲から浮きまくっているのか、と突っ込んでみたいが、まあ、その辺りは商売人のご愛敬か。あるいは、コレドのことを深く反省した上での今度のデザインってことなのか。
それはともかくとしても、高さ31メートルのスカイラインの街並みに、200メートルの高層ビルをぶち建てておいて、「スカイラインとの調和」や「古きよき街並み」の保存なんてことを自慢げに言い立てる感性はどうしても理解できない。「私のところのビルは中央通りのスカイラインをめちゃくちゃに破壊しています。せめてもの罪の償いとして、低層部分のデザインだけは工夫してみました。こんなことで許されるとは思いませんが、これが精一杯なんです。」といった言い訳をするならまだわかるが。
スカイラインが完全に無くなる日まで辛抱
こんな小手先の工夫で、周辺との調和が実現し景観が保たれたと言うなら、同じことを、例えばローマのコルソ通りでやってみれば良い。あるいは、フィレンツェのポンテヴェッキオやヴェネツィアのリアルト橋のたもとで。東京駅の向こう側や京都駅あたりでは通用するのかもしれないけどね。
この先、同じような高層ビルが日本橋周辺には何本か建つのだろう。そうしたら、もう誰も中央通りのスカイラインがどうのこうのって言わなくなる。その日まで頑張ろうってことかな。
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