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2006/01/02

お江戸日本橋と都市景観その10

 本来、この連載記事は、日本橋の景観再生問題について検討しようと思って始めた。しかし、検討を進めていくにつれて、どうしても、景観の問題はひとまず脇に置いて、日本橋地区の経済再生の問題についても書かざるをえなくなってきた。
 それは、今、展開されている日本橋の「景観再生」運動の目的が、実際には都市景観の再生などではないことがわかったからだ。
 結局、日本橋の「景観再生」は、日本橋地区の経済再生に益する一事業として主張されているに過ぎない。従来の経済優先主義から“景観=文化”優先主義への転換、といった、外野の“文化人”諸氏が期待しているような、町づくりの転換と呼ぶに値する新たな動きは、そこにはまったくみられない。

景観よりも経済

 日本橋地区の経済再生に役立つ範囲内なら景観再生も主張してみるが、いざ日本橋地区の経済再生のためには邪魔だということになれば、景観なんかは破壊しても構わない、というのが、今の日本橋再生運動の本音だろう。
 その証拠に、周辺地区での高層ビル建設の規制を強化するといった動きが、今の日本橋「景観再生」運動から生まれてくる様子はみあたらない。それどころか、日本橋川沿いに造成する親水公園の上空の空いた容積を移して沿川の地区の容積率を引き上げ、高層ビル建設を促進しようというプラン(容積バンク)が歓迎されたりする始末である。

 前にも書いたとおり、首都高の高架が撤去された後は、今や世界中で増殖している没個性の親水公園がコピーされ、その背後に高層ビルが林立するという、これまた極端に没個性の都市景観が生まれるだけのことだ(「伝統的景観を取り戻すため」に高架を撤去することへの協力要請を受けた小泉総理が前向きの姿勢を示したそうだが、嘘はダメだと思うよ、嘘は)。

 それでも、もしそうした都市再開発が完成したなら、完成直後は、おそらく、お台場や六本木、汐留、あるいは丸の内みたいに物見遊山の見物客が集まり、また、沿川に建つ最新の高層ビルを武器にすれば、オフィスの集積率も上昇が見込めるだろう。今の日本橋「景観再生」運動はそんな経済的効果を狙った事業である。

「日本経済の顔」日本橋の再生

 しつこいかもしれないが、日本橋の上から首都高の高架を撤去しようという地元の運動が、日本橋地区の経済を再生するための運動であることを、もう少し念入りに確認しておこう。

 現在、日本橋の再生に向けたもっとも大きな動きは、日本橋地区都市再生事業と称する官民一体の事業であるらしい。官=国土交通省と地元・学者などがこの事業を進めているようだ。この事業の中核にあったのが日本橋都市再検討委員会という組織だ(今もこの委員会があるのかどうかは、ネットを検索しただけでは分からなかったが、ここの委員の多くが今も日本橋再生運動に関わっているようだ)。
 前出都市再生事業のホームページでこの委員会は次のように紹介されている。
 「かつて日本橋は日本経済の中心としてにぎわいを見せていました。日本橋都市再生検討委員会(委員長:東京大学 森地茂教授)は、日本橋周辺地区を再度、「日本経済の顔」としてにぎわいを取り戻すために、官民一体となって、道路空間の活用を中心に活動している委員会です。たとえば、三井本館の再開発や三越新・新館の建て替え事業など、また首都高速道路の移設構想など、今、日本橋周辺地区は、都市再生の気運が高まっています」。

 もうひとつ。前にも取り上げた「日本橋 みちと景観を考える懇談会」について。この会がどのような目的で活動しているのか、今ひとつちゃんとした説明は見つからないのだが、日本橋再生に熱心な三井不動産が作成したページでこの懇談会のことが紹介されていて、この懇談会がどのような期待を受けて活動しているのかがわかる。
 「もともと橋の周辺は五街道の起点として栄え、水陸の交通が立体交差して活気のある風景が広がっていた場所。その活気を取り戻そうと、今、国土交通省東京国道事務所や地元・学識経験者などを中心に、首都高速道路のあり方、そして日本橋地区再生のあり方が検討されています。その一環として2004年には「日本橋 みちと景観を考える懇談会」の主催で「日本橋まちづくりアイデアコンペ」が実施され、全国から324作品が応募されました。このことからもこの問題に関する全国的な関心の強さがうかがわれます」。

 また、同じページには次のように記されている。
 「現在の日本橋という地名になった名橋「日本橋」。日本人の精神的な原点ともいえる、この橋のたもとには、江戸時代以来人々が行き交う活気ある風景が広がってきました。今はすっかり首都高速道路の高架の陰に隠れてしまった日本橋ですが、この橋の景観を何とか取り戻そうという動きが起こっており、首都高速道路の移設の可能性、そしてこれを契機として街づくりなどさまざまなアイデアが検討されています」。

 つまり、日本橋地区は、東京あるいは日本の中心であって、「日本経済の顔」となるべき地区である。首都高の高架撤去事業をそんな日本橋の経済再生の「契機」にしたい。これが日本橋「景観再生」運動の目的である。だからこそ、経済再生の役に立つなら、実際には景観破壊となるような行為であっても、そこでは簡単に容認されるのだ(というか、歓迎されるのだ)。

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