ヒルズ巡見を終えて その4
表参道ヒルズ編~後編
表参道ヒルズの一番良いところは、先の記事でも書いたとおり、訪れた人々が、その場の繁華の全体を一挙に視野に入れて実感できることにあるのだと思う。こういったあたりが、断裁されて散在する六本木ヒルズの商業スペースなんかとの大きな相違点であろう。
先の記事では、明治期に流行した勧工場との類似性をあげてみたりもした。一方、勧工場との違いは、表参道ヒルズでは客が個々の店に触れつつも同時に全体の繁華も感じることができるという点にあるかもしれない。
要するに、ここは“市場”の魅力を最大限に活かす空間づくりに成功しているんだと思う。大きな吹き抜け空間を中央に設けて、その周りに通路とテナントを配するという手法は、例えば、最近好調が伝えられるイオンなんかのショッピングセンターでも部分的に用いられてたりする。それと比較すると、表参道ヒルズの場合は、通路が傾斜し、らせん状になっているあたりが特徴だろう。なんでも、表参道の坂道の傾斜角をそのまま採用したんだそうだ。個々のお店で“市場”の細部に接しつつ、同時に“市場”全体の繁華も感じやすい構造だと思う。
自分の身体が“市場”の繁華に包まれる感覚。これが“市場”の魅力だろうし、消費行為がもたらす快楽を高めるための舞台的要素だろう。ネットショッピングがいくら便利になっても“市場”が滅びない原因は、こうした感覚を人々があいかわらず求めていることにあると思う。
社会学者の吉見俊哉が、北田暁大の議論を参照しつつ、六本木ヒルズのあのわかりづらい内部構成を、WEBサイト上の諸情報の配置になぞらえている。六本木ヒルズの、商業空間としてのつまらなさ、あるいは、都市空間としてのつまらなさの理由は、結局、そうした“市場”の魅力の欠如にあるのではなかろうか。渋谷やディズニーリゾートをめぐっての吉見と北田の主張の違いが思い起こされたりもする。吉見・北田の議論に参画するには、ここでいう“市場”の魅力の中身をもっと厳密に分析していく必要があるが、まあ、それはまたいつか機会があれば。
参考文献:吉見俊哉・若林幹夫編『東京スタディーズ』(紀伊国屋書店、2005年)
以上、表参道ヒルズについては、かなり高い評価をしてみた。ただし、これは、様々な制約のなかで作り上げられた、“箱”としての表参道ヒルズに対する評価である。
なるほど、安藤忠雄って建築家は優秀なんだと思った。ここで安藤が実現しているのは、“市場”や商店街としての魅力を発揮するための前提条件の整備である。
こうしたごく当たり前の前提条件を六本木ヒルズや赤坂アークヒルズは欠いてしまっている。その点において、表参道ヒルズの建築は高く評価できるという話である。
しかし、与えられた比較的良好な条件を、表参道ヒルズの店々が現在うまく活かせているか否か、あるいは将来的に活かせていけるか否かは、また別の話である。
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