明暦江戸大絵図と失われた江戸
去年の秋頃はたくさん江戸図をみた。昔、仙台の千葉正樹さんという研究者と一緒に、東北大の図書館が所蔵する大量の江戸図をみたことがあるが、それ以来の経験。 2度目の経験で、鈍感な私にも、やっと江戸図の面白さがわかってきたような気もする。
今回、江戸図をみたのは、明暦江戸大絵図が刊行されるのに際して、その本に解説を書く仕事を引き受けたからだ。
執筆の準備段階で、初期江戸についての高名な研究者の村井益男さんと一緒に絵図を調べる機会にもめぐまれた。学ぶことが多かった。
現在、ちょっと大きめの本屋さんに行けば、江戸図の複製はすぐに手に入る。しかし、その大半は幕末期のもの。明暦江戸大絵図は、その名の通り、幕末からは200年もさかのぼる初期江戸の絵図である。おそらくは明暦大火前に作成された原図に大火直後の情報が記載されて成立した絵図だ。
江戸は、明暦大火を契機にその姿を大きく変えたとされるが、その時期の江戸の空間構造について考える場合、これは必見の絵図だ。というのも、これまで多く利用されてきたこの時期の他の絵図とは桁違いに良い絵図だからだ。この絵図を見ながらの研究と、この絵図を見ないままでまとめた研究とでは、その中身にかなりの違いが生じるだろう。例えば・・・とここで書いちゃうのはやめておこう。
最近、広島大の金行信輔さんなどのお仕事などによって、初期の江戸図の研究レベルは格段に上がりつつある。いうまでもなく、この時期の江戸に関する文字史料は非常に乏しい。江戸図研究の刷新の動きは、初期江戸の都市社会に関する研究の飛躍へ直結するだろう。
さて、今回刊行の『明暦江戸大絵図』。出版社は之潮。コレジオと読む。歴史書や地図の出版で有名な柏書房の社長さんが独立して作られた出版社。一冊一冊手作業で製本された、限定157部の『明暦江戸大絵図』はなかなか高価な本だけど、印刷・装丁も素晴しく、また、拙い解説文はともあれ、地図上の文字情報をほとんど網羅する索引も付されていて、美しくも機能的な本となっている。之潮のホームページにいけば、オリジナルや本と比べると、発色がイマイチですが、この素晴しい絵図の中心部分のサンプル写真と、それに付された村井益男さんの解説文があります。いちどおでかけください。
付記:之潮のホームページに行かれる方は、ぜひ、会社案内や短信の頁もご覧ください。面白いです。おすすめ。
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コメント
常怠人です。
昨日(18日)、荒川ふるさと文化館で あらかわの文化財
講座を受講しました。
村井益男先生の”「明暦江戸大絵図」を読む”を興味深く
聴きました。
出版された「明暦江戸大絵図」をご持参されていました。
小林先生のことも触れられました。
小生は歴史好きの2年後に還暦を迎える熟年です。
このところ江戸の街に関心があります。
一度小林先生のお話を拝聴したいです。
投稿: 常怠人 | 2007/03/19 12:20
常怠人さま、コメントありがとうございます。
村井先生には、絵図調査の過程で貴重なご教示を頂きました。先生の講座はさぞ充実したものだのだろうと思います。私は半人前の研究者なので、なかなか講演などのお呼びもかかりませんが、今年から朝日カルチャーの新宿校にて定期的に講師をつとめております。ただ、私の拙い講義内容と比べると、ちょっと受講料が高すぎるかもしれませんが。もしよろしければご検討ください。
http://www.acc-web.co.jp/sinjyuku/index.html
また、明暦江戸大絵図に関して何かご質問などがございましたら、こちらのコメント欄にお書き込みくださいませ。私にできる範囲でお答えさせていただきます。
投稿: 小林信也 | 2007/03/20 13:33
常怠人です。
こんにちは。
小林先生、朝日カルチャーの新宿の講座に興味があります。
実は4月から某大学公開講座を受講する予定です。
芳賀さんの講座です。
小林先生の講座は金曜日の昼間ですので受講できるか
思案中です。
夜間ならば問題ないのですが。
投稿: 常怠人 | 2007/03/26 10:54
芳賀さんの講座は面白そうですよね。
芳賀さんとお会いになられた折には、明暦江戸大絵図の話もいろいろお聞ききいただけるのではないかと思います。朝日カルチャーの方は、ご無理をなさらないように。もしお出でいただけるようでしたら、ぜひお声をおかけください。
投稿: 小林信也 | 2007/03/29 13:36