新宿のイル・バーカロにて
昨夜、新宿で買い物をしたついでに、新宿三丁目にあるヴェネツィア風居酒屋のイル・バーカロにて、ひとりで夕食。昔から気に入っているこのお店の紹介はまたあらためて。(付記:紹介記事はこちらをクリック)
食事が終わった頃、建築史の陣内秀信先生が、学生さんたちを連れてご来店。まあ、ヴェネツィアと関わりの深いこのお店に、あの陣内先生がいらっしゃること自体はなんの不思議もないわけだけど、僕にとっては、陣内先生とお会いするタイミングは、なぜかいつも絶妙というか、微妙というか。
以前、このブログで、盛り場論批判の記事を書いた。批判の対象のひとつが陣内先生のご著書。すると、その直後、先生が所長をされている法政大のエコ地域デザイン研究所から報告の依頼。(そのときの報告内容の要旨についてはこちらの記事を読んでみて下さい。)
今回も、このブログで、鞆の浦の架橋・埋立工事をめぐって、工事反対の運動のやり方への疑問を書いたばかり。そんなタイミングで、反対運動の中心にいらっしゃる陣内先生と、またしても偶然お会いすることに。もちろん、こんなブログの記事なんて、先生はご存じないままだが。
というわけで、お店の立ち飲みカウンターバーのコーナーで、ワインをご馳走になりながら、これさいわいと、鞆の浦の問題について色々ぶしつけな質問をさせていただいた。それでも、イヤな顔をされることもなく、どの質問にもきっちりと答えてくだる。
先の記事の末尾でもふれた、観光地化した町の過疎化・空洞化の問題についても質問した。すると、すでにその問題は先生も視野に入れていらっしゃって、その上での将来構想も話してくださった。農村部におけるアグリトゥーリズモの漁村版、ペスカトゥーリズモの動きなどは初めて知った。
故郷のことであるにも関わらず、わからないことだらけで、この問題については判断保留状態のままの自分が少々恥ずかしくなる。
鞆の話の後は、僕の大好きなイタリアの田舎町スポレートにあるモンテ・ルーコという山の保全活動に陣内先生が関わっておられたことを初めてうかがう。それから、ローマの夜といえばもっぱらナヴォーナ広場周辺が一番だと僕は思っていたけど、そうじゃなくて、最近はカンポ・ディ・フィオーリが熱いんだとかいった話も。
他にもたくさんの話題で時間があっという間。同席の学生さんたち、先生を独り占めしちゃってすみませんでした。
おしまいには、調子にのって、先生のご本では「イタリア都市再生の論理」が一番好きです、などと口走ってしまった。まあ、実際、僕はこの本が大好き。おそらく、一般に公開された先生のお仕事の中では、最も初期のものだろう。かなり過激な内容の本。この本を読めば、たとえば、歴史的建造物のファサードだけを残してこと足れりとするような保存の問題点がはっきりとわかる。そんな本。
近年もたくさんの研究成果を世に送り続けていらっしゃる先生に対して、受け取りようによっては失礼なことを口走ったわけだけど、それに対しても、今のご自身からみたその本に対する思いなどをストレートにきかせてくださった。
文字通り、願ってもない、まことに貴重な夜だった。
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コメント
イタリアというのは、歴史の重みを逆手に取ることで現代の国際社会をしたたかに生き抜いてきた国なのだ、とつくづく思います。イタリアがここまで文化財の保存に熱心なのは、好きでやってるのではなくそれが武器だから磨いているのだとしか思えません。古い街をちょっと掘ったら文化財がザクザク出てくるようなところで、開発や投資が進まないことも経済危機の一因となったことは十分に考えられます。前首相の強気な発言(イタリア行きの便は今日も満席、等)はその自信の表れと見るべきでしょう。
投稿: きりぴぃ | 2012/04/30 19:50
おっしゃるとおりだと思います。
ちょっと付け加えるなら、イタリアの田舎町へ行って思うに、文化財や歴史景観の修復整備事業が、その田舎町において長期にわたる安定的な雇用を創出している点も重要かなぁと。そうやって地方に雇用を生み出し、かつその成果を観光にも活かしているのだとすれば、なかなか良いやり方ではないだろうかと。
鞆の町でこうした地域振興はできないものだろうか…。
投稿: 小林信也 | 2012/05/04 18:02