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2008/09/04

東野圭吾『白夜行』・『幻夜』の感想

以下、『幻夜』については、いわゆるネタバレ(ネタバラシ?)の感想なので、要注意

 先日、東野圭吾『容疑者Xの献身』を読んで、東野圭吾という作家が気になりはじめた。というわけで、代表作!との声も高い『白夜行』(集英社文庫)を読んだ。さすがに面白かったです。
 うかつにも、これまで東野圭吾の作品というと、テレビドラマ化されたガリレオ・シリーズの原作となった軽い短編をいくつか流し読みしてみて、まあ、さほど暇でもない今、この人の本はわざわざ読む必要もないか、なんて思いこんでいた。
 ところが、先の記事に書いたように、ひょんなことで長編『容疑者Xの献身』を読んで、少し印象が変わった。そこで、この際だから、同じく長編の『白夜行』にチャレンジ。文庫本でなんと860ページ。うちにある文庫本で一番分厚い本だと思う。

 文庫版の解説で、作家・馳星周が、この作品を絶賛しつつ、「ダークな小説」、「ノワールの傑作」と評して、「ノワールの書き手」・「ノワールを書くことに人生を捧げた者」である自分が激しく「嫉妬」させられたことを告白している。
 個人的には、この作品の主要な舞台となっている大阪の都市民衆世界に深く惹かれた。大阪に行ったことはほんの数回だが、東京の“庶民的”な町とは、どこか違った雰囲気や魅力を感じる。いつか、もっと時間をかけて、大阪の町々を本格的に歩き回ってみたいと思う。
 この『白夜行』を読むなら、そんな大阪の町の深いところにどっぷり浸るように、じっくり、ゆっくり、作品世界に入り込んで読むのが良い。長い本だけど、斜め読みは厳禁かな。確か作者自身、この作品のテーマは「純愛」だとどこかで言ってたように思うけど、それをしっかり読み取る方がいい。「純愛」がテーマの「ノワールの傑作」として。

 『幻夜』は、『白夜行』の続編。こちらの文庫版解説で作家・黒川博行が、トマス・ハリスの『ハンニバル』を連想したと書いていることに共感。
 『ハンニバル』は、ご存じ『羊たちの沈黙』の続編。『羊たちの沈黙』と『ハンニバル』を比べると、怖いのは『羊たちの沈黙』の方。『ハンニバル』は、主人公のレクターが、出まくり、しゃべりまくりで、その生い立ちやら心情もさらけ出されてしまい、あんまり怖くない。で、読んで後悔したか、と尋ねられると、いや、後悔はしない、やっぱり読んだ方が良いだろう、というのが答え。やっぱりハンニバルの正体が知りたいもんね。
 
 さて、『幻夜』はどうか。こちらも、『ハンニバル』同様に、『白夜行』では見え隠れ状態だったヒロインが、出まくり、しゃべりまくり。で、テーマは、やっぱり「純愛」なのかなと思いながら読んでいくことになりますが…。ええ、もちろん、『白夜行』みたいな「純愛」物語だと素直に信じて読むほうが、最後にしっかり楽しめます。特に読者が男性の場合は。『白夜行』を読んで、そんなヒロインに、おっかないけど一度お目にかかってみたいと思う男性読者の場合はね。
 『ハンニバル』とはまるで違っちゃってました。
 “賢明”な女性読者の場合は、「この男も(そして素直な男性読者どもも)どいつもこいつもやっぱり馬鹿だわねぇ。」と最初から冷笑しつつ読むんでしょうか。

 つけたし:先の記事に書いたように、『容疑者Xの献身』を読んで、同じく“献身”物の傑作、白石一文『一瞬の光』を思い出したので、白石一文『すぐそばの彼方』を読んでみた。うーん、本の中で展開される政治論は面白かったけど、本筋はどうも僕とは相性が悪かった。『一瞬の光』を超える作品はなかなか書けないのかな。

 さらにつけたし:TVドラマ化された『白夜行』は残念ながら見ていない。だけど、そういえば、このドラマの主題歌が柴咲コウの「影」だった。名曲!(PVも良い)。作詞は、いつものごとく、柴咲コウ自身。原作を読んでから作詞したらしいが、とても良い歌詞。原作のテーマ「純愛」をしっかり読み取った歌詞。
 今回、感想記事を書いてから、ネットでパラパラと『白夜行』の書評を読んでみたけど、なかにはひどいものもある。たとえば、悪に手を染めた雪穂と亮司の関係を純愛なんて呼びたくないとか、雪穂みたいな悪女は許せない、嫌い、とかいった類の、夏休み読書感想文のような書評。作品の最初の方に登場する「清華女子学園中等部」の「藤村都子」あたりならいかにもそんなことを書きそうだ。もうちょっと大きくなってからまた読んでね。その点、柴咲コウはさすがやね。
 付記:この記事の末尾に、TBSのサイトでみつけた柴咲コウへのインタヴューの一部を引用しておきます。
 
 そういえば、ここのところ、ちょくちょく思い出してしまう白石一文『一瞬の光』のヒロイン・香折に対しても、あんな身勝手な女が主人公の男性に最後に選ばれるなんて納得できないっていう“夏休み読書感想文”に出くわすことがある。ある種の人々(しばしば女性)にとっては、雪穂も香折も、絶対認めたくない存在なのかなぁ。

以下、柴咲コウへのインタヴューより一部引用

――ドラマ「白夜行」の主題歌という事ですが…
もともと、東野さんの作品が好きで、ドラマになると聞いて「絶対出たい!」と思ってたんですけど、年齢的な問題とかがあってあえなく出られなかったんですが(笑)、主題歌をというお話を頂いて、喜んで書かせて頂きました。
――小説「白夜行」を読んでの感想
なんだろう…すっごくヒドい人生じゃないですか?ホント、死に向かっていく男の子と、生きる欲望はすごく持ってるんだけど、なんかちょっとその方向が違うなって思う女の子。その2人に惹かれてしまいました。読み終わった後に、後を引く感じはあったけど、気持ち悪さは感じなかったですね。最後はあんな別れ方してるのに、「よく彼女はひょうひょうと歩いて行けるな」って思いましたけどね。彼女は強いですね。生きる欲望の強い人なんだと思いました。
――亮司と雪穂の恋愛観について
なんかもう恋愛観という言葉では片付けられないですよね。亮司に関しては「どうしてそんな人になってしまったの?変えられなかったの?」という生き方だし、雪穂は亮司をある意味自分の一部にして生きていて、すごくしたたかな女性なのに、ズル賢くないし、決してイヤミじゃない所がプリンセスだなって思います。
――「影」はどんな思いを込めて書いた詩なんですか?
絶対に主人公の2人の感情をひろって表現したくて、亮司が生まれながらに持っている“深い喪失感”みたいなものと、 “恋とかでは済まされないような愛”が表現出来ればと思って書きました。詩を書く時は亮司目線、逆に歌を歌う時は亮司の気持ちを雪穂が歌っているような気持ちで歌いました。
 

(インタヴューの引用、ここまで)

 “このインタヴューを読んで”
 さすがに、ちゃんと読めてるなぁ、と感心しきりですが。ただ、亮司の人生に対して、「どうしてそんな人になってしまったの?変えられなかったの?」って問いかけてみても、それは無駄だろうなぁと。こうした亮司の生き方は、『容疑者X』の石神と大いに通じるところがあると思う。

2010.9.3.付記 
 それにしても、亮司の気持ちを雪穂に歌わせるって柴咲コウの着想がすごすぎるね。天才的。残念ながらドラマや映画では雪穂の役が回ってこなかった彼女だけど、この曲を歌いPVのなかで演技することで、東野圭吾も書かなかった『白夜行』の外伝を高い完成度で作り上げることに成功している。ホント、このPVは良いですよー。
 っていう付記を書く気になったのは、最近の『白夜行』人気。今、中国ですごく売れているんだとか。ちょっと前はたしか韓国で注目されて、リメイクのドラマだか映画だかが作られたんじゃなかったっけ。
 日本では、こんどは掘北真希の雪穂か…うーむ。確かに良い女優さんだけど。あ、そうだ、柴咲コウには、『幻夜』のヒロインのチャンスがあると思う。実現しないかな。

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