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2008/10/23

映画『容疑者Xの献身』の感想

※この記事の終りの方に、いわゆるネタバレあり。これからこの映画を見に行く人は読まないでね。
 

 先日、映画『容疑者Xの献身』をみてきました。なぜか親子4人家族そろって。軽いタッチのテレビドラマ版探偵ガリレオをみてファンになった子供らが、どうしても映画もみたいって言い張るもんだから、「テレビとは違って、この映画は、たぶん、小学生のお前たちには面白くないよ。」って予防線を張って映画館に入りました。が、シリアスなテーマにも関わらず、意外にも、子供たちはちゃんと映画の展開に入り込んでいけたみたいです。

 別に親バカのわが子自慢ってわけではなく、思うに、石神の献身=愛ってのは、大人の欲望やら打算やらの濁りとは無縁の、純粋でプリミティブなものだから、その核心部分については、子供でもちゃんと共感できるのではないかなと。というか、子供の方がよりストレートに理解できるのかも。まあ、下の方の子はちょっと怪しかったですけど。上の子は、石神の書いた茶色の封筒の最後の手紙に、いたく感心していました。

 一流大学の准教授のガリレオ湯川とは違って、アカデミズムの世界でのポストを得ることもできず、不遇の人生に絶望した数学者の石神が、その絶望の窮みに至ってはじめて獲得できたのが、そんな純粋でプリミティブな愛だったのでしょう。そうした大人の人生の紆余曲折の意味の方は、お子ちゃまたちにはまだ理解できないでしょうが、その紆余曲折の末に石神が到達した境地は、子供の心も確実に共鳴する、シンプルでストレートな美しさを帯びていたということでしょう。そうした境地に達した石神は、そこで再び、数学の美しさに没入する喜びも取り戻します。
 こういった原作の基本主題がちゃんと観客に伝わることだけをとっても、この映画はかなり良い出来であると言えるのではないでしょうか。

 もうひとつ、感心したのは、あの隅田川沿いの地域の色が、よく表現されていたことです。できれば、錦糸町のスナックのシーンも少しだけでいいから入れて欲しかった。それで靖子の人物像がいっそうふくらむはず。

 「とばっちりで殺された例の被害者の身にもなってみろよ。」という不満は重要だと思います。それは、目的をより見事に達成するためなら手段は選ばない、といった石神の狂気についていろいろと思いを巡らすときのポイントになります。
 もちろん、この問題をほじくりだして、「この映画は人命を軽視している。」と単純に批判しても仕方ないでしょう。石神の愛がそのまま“善”なるものでないことは確かで、そこにこの作品の本当の深さというか、隠れた怖さがあるように思います。その怖さは、原作の活字を追うだけだとついつい薄まりがちですが、今回の映像からは、しっかりとにじみ出ているように思います。
 柴咲コウが演じる内海刑事は、原作に出てこない、映画だけの登場人物ですから、せっかくなら、その彼女が、そうした不満の表明をやってもよかったと思います。湯川相手か、あるいは石神本人相手か。
 映画では、湯川に向けて、「痛みを分けてください。」みたいな甘ったるいことをわざわざ彼女に言わせてますが、このセリフはあまり必要ないように思います(別にこれがなくても営業上の問題だってないだろうに)。
 無関係の人の命を、自分の純愛の表現である例のトリックのなかのひとつの“ピース”として利用し消し去ってしまう。そんな狂気の純愛は、どこか『白夜行』の亮司の純愛に通じるところがあるような気もします。つまり、東野圭吾の追求する純愛ってことです。石神の「献身」のこうした暗い面を衝くには、内海刑事はちょうど良いキャラクターだと思うんですが。

 原作の感想は、こちらの記事です

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コメント

小林さんに刺激されたわけではないですが、昨日、家族で見てきました。

下の子はわかったふうのこと言ってましたが、ストーリーを追うのがやっとだったでしょう。
上の子は、石神の気持ちの面がやはりよくわからなかったみたいです。やはりこの辺りは男の子は鈍感なのかもしれませんね。

大人3人(私の母も一緒だったので)は、至極満足。テレビシリーズの軽快さとは別物の映画ならでは出来に、ストーリーに没入できました。非常にいい映画だったと思います。

柴崎ファンとしてはちと物足りないですけど・・(笑

季節のうちに大宮に行きたいですね~(と誘い水)


投稿: ひろぱぱ | 2008/10/27 18:48

こんにちは。映画、良かったですよね。原作を読んでて筋はわかって観ても、やはり感動的でした。柴咲コウは、映画ではなかなか役に恵まれませんね。あれだけ人気があると、どうしても商業主義の要請に引っぱり回されちゃって残念です。歌の方のPVを観ると、細やかな芝居も上手そうなのに…。
大宮で、ちょっとだけ白いものを食べました。天候のせいか、難しい出来みたいですが。ただし、びっくりするくらい格安価格。入荷を確認して行きましょうか。
浦和の元シェフが開いた上尾の新店にも行きました。とっても家族向けです。値段も家族向け。ご自分のお店ということで自由度が増して料理内容はレベルアップ。こちらはぜひまたファミリー合同にて。

投稿: 小林 | 2008/10/28 08:56

大宮も上尾も是非お願いします。
(家族連れはスケジュールが難しいですが・・)

投稿: ひろぱぱ | 2008/10/28 19:07

あ、そうそう。今、東野圭吾のガリレオシリーズ新作の長編『聖女の救済』を読んでいます。なんと、これには、今までテレビ・映画のみのキャラクターだった内海刑事が、ついに原作登場します。テレビ・映画よりは、かなり優秀な感じの内海刑事。勝手な想像だけど、柴咲コウが自分の熱心なファンだということで、東野圭吾が、柴咲コウを念頭に、いわゆるアテ書きをやってるのかなと。かなり楽しんで読んでます。もし原作に忠実に映画化されたら、今回の映画の内海刑事とは違った、より魅力的な役になるような気がします。柴咲ファンとしては楽しみ楽しみ。

投稿: 小林 | 2008/10/29 14:54

ガリレオシリーズの原作は1冊も読んでないです。
丁度、読むものが切れたとこなんで、最初から追ってみようかなぁ~。

内海刑事ちょっと楽しみですね。

投稿: ひろぱぱ | 2008/10/30 08:49

先のコメント、ちょっと嘘を書いちゃいました。たしかに、内海刑事は、単行本だと今回初登場ですが、雑誌連載だと、ドラマ公開よりも先に登場してたみたいです。ただ、ドラマ企画段階で女性刑事のキャラクターを登場させることが決まり、それを受けて東野圭吾も自分の作品に内海刑事を登場させたみたいです。というわけで、もしドラマの企画で柴咲コウの出演がかたまっていたのなら、柴咲コウを念頭に置いたアテ書きの可能性はあります。実際のところ、どうなんだろうなぁ。ちょっと興味があります。

投稿: 小林 | 2008/10/31 11:49

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受信: 2008/10/27 22:29

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